東京地方裁判所 昭和50年(ワ)8475号 判決
一 原告が本件実用新案権の専用実施権者であること、本件考案の登録出願の願書に添付した本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
右争いのない事実によれば、本件考案は、棒材自動供給装置に関するものであつて、次の構成要件からなることが認められる。
A 棒材を送る機構を二枚のカムで構成していること。
B 上記カムのうち一方のカムは、その外周に各種の大きさの凹部を複数個穿設していること。
C 他方のカムには、外周に前記各種の大きさの凹部のうち一番大きいものに等しいかそれ以上の大きさの凹部を一個だけ穿設していること。
D 前記二枚のカムを重畳して回転軸に装着し、前記一方のカムの任意の大きさの凹部と他方のカムの凹部とを対向させるようにしたこと。
二 被告が製造販売した被告装置の構造及び作用が別紙物件目録記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。
三 そこで、本件考案と被告装置とを対比する。
まず、被告装置においては、棒材を一本ずつ送る機構を二枚のカム3、4で構成しており、右二枚のカムのうち一方のカム3は、その外周に各種の太さの棒材が一本だけ係合可能な各種の大きさの凹部6を複数個穿設しているから、被告装置が本件考案の構成要件A、Bをいずれも充足していることは明らかである。
そこで、進んで被告装置が本件考案の構成要件C、Dを充足するか否かにつき検討する。
被告装置のカム4は、円周角一四〇度の扇状形であつて、換言すれば、全外周の三分の二弱(二二〇度)に等しい大きさの切欠部7を有しており(以上の事実は本件口頭弁論の全趣旨から明らかである。)、かつ右切欠部はカム3の外周に設けられた複数個の凹部6、6……のうち一番大きいもの以上の大きさである。一方、本件考案の一方のカムには、その外周に他方のカムの各種の大きさの凹部のうち一番大きいものに等しいか、又はそれ以上の大きさの凹部を一個だけ穿設する(構成要件C)というのであつて、前記登録請求の範囲の記載自体としては、一応右一個の凹部の大きさの最大限度につき格別の限定をしていないようにみえる。したがつて、被告装置のカム4がそもそも凹部を有するといえるか否かという問題をひとまずおくとすれば、被告装置は構成要件Cを充足するとみる余地もないではなさそうである。しかしながら、前記凹部の大きさの最大限度につき一定の限定があると解すべきか否かの問題は、他の構成要件との関連で、なお検討すべき点があり、にわかに右のように断定することはできない。
そして、被告装置においては、カム3、4を組立てるには、カム3の多数の凹部6、6……のうち棒材の径に適合した凹部一個を選択し、この凹部に引き続いて前記物件目録添付第2図の矢印ロ方向に設けられている若干数の凹部がカム4の扇状凸部で閉塞されるようカム3、4の位相をずらせるのであるから、カム3の多数の凹部のうち、カム4の切欠部7に対応する部分に設けられた複数個の凹部(選択された前記凹部一個も含まれる。)が常に開放状態に置かれることになる。これに対し、本件考案の場合は、二枚のカムを重畳して回転軸に装着し、一方のカムの複数個の凹部のうち任意の大きさの凹部と他方のカムの凹部とを対向させるようにした(構成要件D)というものである。そうすると、被告装置における前述の凹部の対応状態が本件考案にいう「対向」に該当するか否かが次の問題となる。
ところで、前記登録請求の範囲の記載は、一方のカムにつき、「その外周に各種の大きさの棒材が一本だけ係合可能な各種の大きさの凹部を穿設し」とし、他方のカムについては、「前記各種の凹部のうち一番大きいものに等しいかそれ以上の大きさの凹部を1個だけ穿設し」とし、ついで「前記一方のカムの任意の大きさの凹部と他方のカムの凹部とを対向せしめる」と結んでいる。のみならず、成立に争いのない甲第二号証(本件公報)によれば、本件明細書中の「考案の詳細な説明」欄には、本件考案の実施例を示す図面についての説明として、「前記カム12は……外周に被加工棒材Aが一本だけ係合可能の凹部15が穿設されている。被加工棒材Aは多種の異る径を有する棒材が供給されるので、この凹部15は、前記各種棒材の各々の径に応当するように、多数の異る大きさの凹部15a、15b……15xが外周に沿つて配置されることになる。一方前記カム13には……外周には被加工棒材Aが係合可能の凹部17が1個だけ穿設される。この凹部17は前記凹部15のうち最も大なるものに等しいか、(そ)れ以上とすることが必要である。」(本件公報一頁右欄三行目ないし一五行目)との記載があり、また右実施例の装置の作動についての説明として、「ネジ14をゆるめてカム13を回転させ、被加工棒材の径に応当するカム12の凹部例えば15xをカム13の凹部17と重ね合せた上、再び上記ネジ14を締めて固定する。このときはカム12の他の凹部15は、カム13の外周によつて全て、閉塞状態となつているので、被加工棒材は前記凹部15xにのみ係合可能状態となつている。」(本件公報一頁右欄二八行目ないし三五行目)との記載がある反面、右の態様以外の態様でも本件考案を実施しうるとの趣旨を具体的に明示した記載は、本件明細書中に全く存在しないことが認められる。
以上の諸点を総合勘案すれば、本件考案にいう「対向」とは、一方のカムに設けられた複数個の凹部のうち任意の大きさの一個と他方のカムに設けられた一個の凹部とを向き合わせ、一方のカムのその余の凹部はすべて他方のカムによつて閉塞されるようにした構成をいうものと解するのが相当である。したがつて、被告装置は、前にふれたように、カム3の各種の大きさの凹部のうち任意に選択された一個を含む複数個の凹部が常にカム4の切欠部7に対応して開放状態に置かれる点において、前述の「対向」に該当せず、本件考案の構成要件Dを充足しない。
また、「対向」の意味を右のように理解すべきである以上、本件考案の一方のカムに一個だけ設けられた凹部の大きさが、他方のカムに設けられた各種の大きさの凹部のうちの二個以上に同時に対応するようなものであつてはならないことは、いうまでもない。前記登録請求の範囲の記載において、他方のカムに穿設すべき凹部を「1個だけ」に限定した趣旨も、まさに、この点にあるのである。したがつて、被告装置は、カム4の切欠部7がカム3の各種の大きさの凹部のうちの複数個と対応するような大きさである点において、かりに右切欠部が本件考案における「1個だけ」の「凹部」に該当するとしても、本件考案の構成要件Cも充足しない。
以上のとおり、被告装置は、本件考案の構成要件C、Dを充足しないものであるから、その技術的範囲に属しないものというべきである。
原告は、また、本件考案の構成と被告装置の構造との差異は設計上の微差にとどまるとの趣旨の主張をするが、これを採りえないことは前に説示したところから明らかである。
四 よつて、原告の本訴各請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないから、これを棄却する。
〔編註〕本件における実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。
被加工棒材の自動供給装置において前記棒材を1本ずつ送る機構を2枚のカムで構成し、上記カムのうちの一方のカムはその外周に各種の太さの棒材が1本だけ係合可能な各種の大きさの凹部を複数個穿設し、他方のカムには外周に前記各種の大きさの凹部のうち一番大きいものに等しいかそれ以上の大きさの凹部を1個だけ穿設し、前記2枚のカムを重畳して回転軸に装着し、前記2枚のカムの位相をずらすことにより、前記一方のカムの任意の大きさの凹部と他方のカムの凹部とを対向せしめる如くした棒材自動供給装置